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声と地下鉄

 

先日、地下鉄半蔵門線に乗ることがあり表参道から乗った時のことだった。
車内アナウンスの声が聴こえてきた。

「次は、青山一丁目〜〜〜」

とても甘く、豊かな心地よい声が車内に広がっていった。
車掌さんと言うと、どうしてもあの鼻にかかった独特の言い回しが耳に残っている。
あの声の出し方もきっとノイズの中でハッキリと情報が届くように創られているのだろう。

いい声を聞くとどうしてもどんな人なのだろうと、お姿を見てみたくなる。

最後尾からひとつ前の車両だったので、
そっと移って車掌室を覗こうと思ったら、
深緑のカーテンが下ろしてあり、お姿が見えない。

そうなると、どうしても見たくなるのが人間というもの。

目的の駅で降り、ホームから車掌室を覗いてみた。
新人の車掌さんなのだろうか、ベテランの指導員が寄り添い何かと指示を出している。

少しガタイのいい新人車掌さんと目が合った。

「いい声をありがとう。ほのかに嬉しい気持ちになったよ。」と僕は心の中で呟いた。

きっと、指導を重ねていくと、いわゆるあの車掌さん声になっていくのだろうな。
それがひとつの伝統なのかもしれないけれども、地下鉄というあのノイズの中で
甘く豊かな心地よい声もいいのではないかなぁ。

きっと、僕だけじゃない。

乗客の中に、ふとその声に気持ちが惹かれた人がいるはずだ。

ノイズの中だからこそ、際立つ心地よさ。

声の魅力を感じた半蔵門線。

楠瀬誠志郎

 

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