福田 宏之博士
ヒトは様々な方法で思いを述べたり,感情をあらわにしたりします。髪の毛が逆立ちしたり、耳をそばだてたりするなんてことも出来ます。また鼻翼をピクピクさせたり、鼻の穴を広げたりして言いたいことを表現したりもします。鼻で笑ったりも出来ます。目が笑ったり泣いたり、はたまた殺したりなんて容易なことです。目尻をさげてみたりも。また眉をひそめたりして何らかの表現も出来ます。よだれを垂らしてなにか欲しいなんてことも表現しています。舌を巻くことも出来ます。顔全体の変化で怒ったり、優しくなったりもできます。肩を落とす、肩をそびやかすことでも思いを表現しています。腹芸もあるのですが最たるものはお臍で茶を沸かすことでしょう。また腰を抜かすことでも何か表現しています。お尻で音や煙を出すことも出来ます。それで他人を遠ざけたり、煙に巻いたりなんてことも出来ます。
さて以上の身体的表現は性差がありません。つまり女も男も同じだということです。ところで自分の意志や感情を端的に表現する手段は<声>であることは誰でも認めることでしょう。さてその声ですが性差が著明なのです。赤ちゃんが生まれます。お父様の貴男は外でその産声を聞きます。息子か娘か産声で分かりますか。実物を見るまではどっちか焦っているはずです。産声から出発してだんだん男の子、女の子の声になってきます。最初は男の子の方がピッチが高いのです。だからボーイソプラノがあるのです。
昔18世紀のヨーロッパの宮廷音楽ではこのボーイソプラノが全盛期でした。上手なボーイソプラノ歌手のいる家庭は左うちわで豊かな生活が送れました。でも悲しいことに変声期でこの状況は一変します。男女のピッチは見事にひっくり返ります。男の子は1オクターブ下がります。それであろうことか睾丸を摘出してソプラノを維持しようとします。ワグナーも書いています。ワグナーの父親の友達がそうした人らしく<悪魔みたいにぶくぶく太って醜いけどその天使みたいな声にびっくりした>と。ホルモンの影響でぶくぶく太ってしまうようです。このように声は特に性ホルモンによって制御されているのです。そして男と女の区別がつくのです。例えば小鳥のさえずりは雄と雌が呼び合うためのものです。ですから声そのものもそうした性的手段であると言えます。声だけで好きになったという経験もあるでしょう。実物を見るまでは。
そのような観点からしても声を美しく魅力のあるものにしていかないといけないのです。そのためには音声音響を含めた医学的な考え方も重要ですが、それに特化せず総合的な芸術に統合される必要があります。その意味で今回このような目的でプロジェクトを組むことは実に意義のあることであると言えます。
国際医療福祉大学 東京ボイスセンター
福田 宏之
福田 宏之
国際医療福祉大学東京ボイスセンター所長
国際医療福祉大学教授
慶応義塾大学医学部客員教授
日本音声言語医学会顧問
日本気管食道科学会顧問
日本喉頭科学会理事
世界気管食道科学会評議員
世界気管支学会評議員
医学博士
Breavo-para顧問
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